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| ある美しき困惑 この旅に来る前、私の目的は簡單明瞭だった。 ”パイトゥーンを訪ね、張國榮が残した足跡を見、哥哥がこのホテルを愛した理由を深く感じよう。” ホテルを出発する直前、ホテルの人さえちょっといぶかしげに「あなたは何日もホテルから出られてないですね!」 それはあの夜明けのリバー・クルーズに行ったのも、感覚的には私はホテルの中にいるままで、それはホテルから直接船に乗り込んだからであり、河までもがホテルの限りない延長部分となっているのだ。 この場所は、私の当初の目的を除いても、何か他に、私の潜在意識の中で名残惜しさを感じさせるものがある。 ホテルの周りを囲む道路をぐるりと歩いてみたが、隣にある東亜貿易会社の植民地風建物はすでに空き家となっており、取り壊されないままそびえ立っていた。建物の前にある、油麻地にあったような古い船着場はまだ人の流れがあり、そばには屋台がずらりと並び昼食が準備され、どこかで見たことのある風景画のよう。高貴なものと一般市民の距離が、目と鼻の先で調和して並んでいる。 この懐かしさを覚える植民地の金銭的情景は、かつて香港のものでもあり、しかし今では香港ではなくなってしまい、ただここに残るのみ。 香港の最後の貴族として、哥哥はまさしくここに属するものだ。 普通の観光客である私の、この時の心情は、明らかに来た時よりも困惑していた。それ以外に見る価値のあるものなど無いほどの美しい困惑を。 ■完■ |


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