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TOPメモリー追悼の言葉王菲
☆おしゃしん



「上海グランド」で共演。彼の監督処女作に主演が決定していた中国の女優

寧 静(ニン・チン)
『偸 心』




 もしもあの日のあの電話を自分でとっていたとしたら、私は間違いなくその記者を怒鳴りつけていただろう。しかし、それから何本もの電話が続けて入り、私はその日の午後なんとなく気分がすぐれず監督に休みをもらったことに思い当たった。心の中に不吉な予感を感じながら私は袁農に電話をした。彼女は自分で電話をとり、知ってるのねと言った。

本当なの?!と私が言うと、そうよ、本当なの、もう哥哥はいないのと言った。

 私の心臓は鼓動を止め、声さえも変わってしまった。どうして?どうしてなの?彼はまだ私に借りがあるのに?私は感情を抑えきれず受話器に向かって叫んでいた。

 本当は彼が私に借りなどあろうはずはない。ただ彼が自分でそう言っていただけのことだ。「新上海灘」を撮影中、転んで怪我をした私が入院した時、彼が見舞に来なかったことをそう言っていたのだった。私は彼と劉徳華(アンディ・ラウ)が病院に来て病院中が大騒ぎになることを避けるために見舞を断ったのだが、二人は見舞に来ない代わりに毎日花と電話をくれた。

 去年の初め、哥哥は自分で映画を撮ることになり私を主演女優として使おうと考えた。彼は急いで北京に来たが脚本は見せてくれず、その替わりに午後中かけてストーリーを語ってくれた。説明はワンシーン、ワンカットの細部にまでわたり、私の意見も聞いてくれた。キャスト、撮影、美術と全て準備は整っていて、更に衣装は日本のデザイナーに頼むと言っていた。出演料の話になり、哥哥は私に金額を聞いた。私は私たちの間でお金の話なんかする必要ある?と答え、あなたがくれるなら私は貰うし、くれなくても全然構わないと言った。そのあと私からもよいと思われる芝居を幾つかと私が前々から演じたいと思っていた「孝庄秘史」などを推薦した。哥哥はその時姜文に会いたがっていたので私が彼らを引き会わせた。彼らはたちまち意気投合し、姜文は哥哥の二作目の映画の主演を務めると言った。

 それ(「偸心」 *ぬすまれた心)は非常に物悲しいストーリーだった。描写は非常に繊細で、まるで小説を読んでいるような感覚だった。特記が非常に多かったが、それは彼の人間の感情は必ずしも表情に出るものではないが、顔には絶対に何らかの変化がなければならないという持論のためで、それは特記としてあらわすしかないのだと彼が考えていたせいだ。彼がこれらのことを語っていた時、私の頭の中には全体の情景が広がり細かいシーンが浮かんでいた。私は彼にどうして監督になりたいと思うのかなどと聞こうとは思ったことはない。彼が監督になるということはあまりに当然で自然なことだったから。

 4月になって、彼は突然帰ってしばらくの間休むと言った。彼は多くを語らなかったので私も多くを尋ねなかった。

 私が最後に哥哥会った時、彼は会議室でスタッフと会議をしていた。私がドアを押して中に入ると、彼は黒いセーターを着て一番奥の席に座っていた。私を見ると嬉しそうに手招きをして私を呼び寄せ「ダーリン、みんなに紹介するよ」と言った。そして皆に向かい「この人が僕のヒロインだ。きれいだろ!」と言った。彼は私の腕をつかんで引き寄せるとと突然私の方に向き直り「腕はもう少し絞った方がいいね。あと顔の吹き出物、それは漢方薬で治すといい。それから産毛には注意してね、アップになった時に目立つから」と言った。彼はスタッフに会議を続けさせ、私たちは外に出て煙草を吸った。哥哥の煙草はいつもの白いマルボロだった。私が「疲れてるみたいね?」と言うと彼は眉を上げて真面目な顔になり「そう?最近会議が続いて毎日寝るのが遅いんだ」と言った。一呼吸おいて私を見つめ「疲れてるのがわかる?」と聞いた。

 実際のところ、肌はきめ細かく滑らかで、彼は年をとればとるほど若くなってゆくようだった。ただ一つ、あの両目を除いて。彼の眼の中には急激な変化が見てとれた。あの瞳はあまりに苦しげだった。それ以外の点において、彼はまるで若者のようだったのに。でも演技をしている時の彼の眼の中に宿る固執は他の俳優には決してないものだった。冷静で自信に溢れた眼。見つめられたら骨の髄まで見透かされてしまうような眼。

 今日の今日まで、私は自分に記憶の中の彼の顔を思い出させるよう努力している。彼の声、彼の仕草、そして意識的な北京のアクセント。だって彼がもういなくなってしまったなんて「想像」することすらしたくないから! 彼は生きるということをよくわかっており、また生きるということを心から愛していた人だった。限りない魅力にあふれた人だった。こんなに多くの人が彼を好きで、愛しているということに何の不思議があるだろう。だって今の世の中、どこにあんな人がいるというの?

色々あって私は彼の葬儀には行かなかった。花輪さえも送らなかった。もし私が行けば花輪も送ったろうが、それを目にしたら私は絶対に取り乱して泣き狂ってしまったことだろう。行かないのも悪くない。彼には「ずっとあなたを忘れない」と言った。この数日間で、もし神様が彼を早めに連れていったのなら、彼にもどうすることもできなかったのだと思うようになった。それも悪くない。もう彼は苦しまなくて済むのだもの。

寧 静


『偸心』:この映画は二人の男と一人の女の物語だった。女性は独身で、彼女には厳しい母親(沈殿霞)がいた。彼女の家の上のフロアに若いピアニストが越して来て、彼は人を感動させるピアノを弾き彼女を誘惑する。彼女の方でも彼に惹かれてゆくが、二人がついに結ばれた時、男は姿を消してしまう。彼女は母親の勧めに従い従兄弟(胡軍)と結婚するが、最後になってあのピアニストが最初から最後まで彼女を騙していたことを知る。
哥哥は後になって私に教えてくれた。その男が本当はピアノさえ弾けないのだということを。彼はただレコードを流していただけだったのだ。それでも彼女はその男を愛していた。





出典:『演芸圏』第五期、『張国栄、請留言』に書かれたものより


日本語訳:小蘭














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